君がいるから


 ほんの一瞬だけ胸を撫で下ろしたけれど、私が考えてる事を実行したらまた怖い思いをするのかと不安が過ぎる。
 でも……このままここにいて、この人達の勝手な言い分のまま連れていかれるわけにはいかない。だから、彼等の気が緩んでいる――今しかない。
 自分自身と結論を出して決めたと同時に一文字に口を結んで、男達に背を向け地を勢いよく蹴った。

「あ! てっめ逃げんじゃねー!! おい、おっさん追いかけるぞ」

「あ~へいへい、うぇー気持ちわりぃ……」

「おっさん!! てめぇは毎回毎回加減しねーで飲むからいざという時、使えなくなんだろーが!!」










 ガサッガサッガサッパキッ

 はぁはぁはぁ……。

 草を掻き分けながら、何処へ向かうのかさえ分からないまま、ただただ前へと突き進む。後なんて一切振り返らずに、息が上がりうまく息が徐々に吸えなくなってきても、ひたすら足を動かし続けた。

「あっ」

 まだ先は草木が続いているかと思ったら、樹木などはなく広く開けた場所へと出て、荒く息を吸い込みその場で足が止まった。一番に目を引いたのは――大きな口を開いている洞窟。
 中は真っ暗で何処まで続いているのか、私がいる場所からは奥までは到底見えるわけがない。だけど……洞窟から流れ出てきているであろう風が、不思議と私を呼んでいるように思えた。
 自ずと足が洞窟へ向け歩み始め、草を踏みしめ穴の前へ辿り着くと足が止まる。岩に手を着いて、暗い中を覗き込む――。

(汝……)

「っ!!」

 突然頭に響いた声に驚き、洞窟から咄嗟に距離を取る。

(何――今の――)

「おい、おっさん! もっと早く走れっつーんだよ!」

「ちょっとは年寄りを労われ~」

「はぁ!? いつもは年寄り扱いすんなって言うのはどの口だよ!!」

 背後からあの2人の声がし、ハッと我に返り体を振り向かせたけれど、姿はまだ無かった。草の擦れる音が徐々に近づいて来ている事は確実。最早、選択の余地は無い――この中に入るしかないんだ。
 再び、拳を握って洞窟へ視線を向けると、再び地を蹴った――。