もう一度眠ろうにも、目が覚めてしまい眠れない。
どうしようかと悩んでいると、再び扉が開いた。
「ヒメ、おはよう!」
この元気な声の持ち主は、佐久間さんだ。
「さっき誠から、ヒメが起きたって聞いたからさ、急いで来ちゃった」
ベッドに駆け寄ってくると、しゃがみ込んで目線の高さを同じにしてくれる。
人懐っこい表情と、愛らしい大きな瞳に癒される。
以前の人間恐怖症が、今では嘘みたい。
「来てくれてありがとう。
ちょうど暇してたの」
退屈なあたしには、佐久間さんの明るさがまるで光のよう。
何か話題をと思い頭を働かせていると、佐久間さんが先に話を始めてくれた。
「ねぇ、ヒメは花火って知ってる?」
「花火?」
「そう、よく夏の夜にやるんだよ」
花火といえば、エシャルにもある。
魔法を使った遊びで、杖の先から色とりどりの火花を散らすものだ。
火花がやがて地に舞い落ちると、それが種となって鮮やかな花を咲かせる。
もちろん人間界には魔法はないから、佐久間さんの言う花火はあたしの知らないものだわ。
「人間界の花火、見てみたいかも」