「私たちの領域を、守ってほしいのです──」





告げられた瞬間、水の箱が音も立てずに崩れていく。

さっきまで目の前にいた彼女は、水に包まれるとその中から本来の姿を現した。


とても美しく、儚げな女性の姿だった。



「楼那さんっ」

水の妖精が歪み消えかかる瞬間、琴葉ちゃんが呼ぶ声。


「きゃあっ」

あたしは、宙を流れ舞う水の渦に巻き込まれ、シャボンから放り出される。

視界が、水のせいでぼんやり曇った。


息が……苦しい。

このままでは、水に呑み込まれて死んでしまう。


杖を握り締めたまま、圧倒的な妖精の魔力に対抗する術がない。



あきらめかけた時、ポンと音を立てて水が柔らかい泡に変わった。

突然器官に空気が入ってきて、むせてしまう。


「楼那さん、大丈夫?」

ふわりふわりと地上に舞い降りるあたしのそばに、琴葉ちゃんが駆け寄ってきてくれた。


あぁ、この泡は、琴葉ちゃんの魔法だったのね。


「助けてくれて、ありが……」

そこで、あたしの意識はプツンと切れた。