「あっ…ご.ごめんなさい」

「いや、謝らなくて大丈夫。
割れなくてよかったな」



鼓動が早くなるのを感じながら、彼がグラスをテーブルに置き直すのを見つめた。



「あー、やっと起きてきた。
愛琉、おはよう」

視線をテーブルに落としているあたしの耳に、届いた恋千くんのセリフ。


すぐに顔があげられない。



「はよ、ねみぃー」

怠そうな愛琉さんの声に、なぜかドクンと心臓が大きく脈打った。


「まだ眠いの?
アッキーって眠気と親友みたいだね」

お箸を片手に笑う佐久間さんの声は、耳を素通り。



「すず、水」

「へっ、あ、はい」


名前を呼ばれて、視線を合わせずに空いていたグラスに水を入れる。

愛琉さんは、のん気に欠伸をしていた。


あたしはただただ、どうしようもなく高鳴る胸の鼓動を抑えようと必死で。



「はい──あっ!」

震える手で運んだグラスが、綺麗にテーブルの上に転がる。