「あ、僕こう見えても日本人なんですよ? 母親がフランス人なんで、こんな髪の色してますけど」
気さくで人懐っこいのか、男の子は月野に話しかけてくる。
「お姉さん、桜好きなんですか?」
「え? あぁ、うん」
「僕も好きなんです、桜。僕、おうた、って言うんです。桜に太いって書いて、桜太」
近くで見ると、より一層、美少年だ。
背は月野より低いが、どこか色気のようなものが漂っている。
(なんだろう、この感じ)
全身に感じる違和感には、覚えがある。
そう、まるで浦部のような―――。
(まさか。でも・・・・・・)
月野は視線を逸らし、十夜の姿を探した。
一瞬、黒い髪が揺れたように見えた。
「ねぇ、お姉さん。お姉さんは、僕を救ってくれるのかな? だとしたら、嬉しいな」
「え? ―――ッ!」
ぐらりと、視界が揺れた。
声も出せず、そのまま月野の体は、桜の花びらが散るアスファルトに倒れ込んだ。



