あぁ、父もヴァンパイアだ。
優しいのに冷たい。
父の言葉は、娘の月野には優しいけれど、実の母親に対する愛情が、少しも感じられない。
「うん。お母さんに、月野は元気だ、って伝えて。また、電話するね」
電話を切り、月野は振り返る。
十夜は気遣って、見えない場所に移動したらしい。
「・・・・・・逃げ出したい」
こんな、残酷で無慈悲な世界から、今すぐ逃げ出して、“いつもの私”に戻りたい。
ヴァンパイアもダンピールも知らない、いつもの普通な毎日に。
「―――!」
「こんにちは、お姉さん。桜が綺麗ですね」
妙な気配らしいものを感じて、月野は慌てて振り返る。
そこには、綺麗な男の子が立っていた。
中学生くらいだろうか?
金色の前髪の向こうで、茶色の目が怪しく光る。
(誰・・・・・・?)
知らない男の子。



