ヴァンパイアの治癒力を持ってすれば、こんな傷、簡単に癒える。
けれど、これは月野―――ダンピールがつけた傷だ。
未だ、手の平の傷は癒えぬまま。
これを見せれば、彼女のダンピールとしての力を見せつけるようで。
ヴァンパイアを殺せるという事実を突き付けてしまう気がして。
十夜は思わず、隠してしまった。
「綾織くん?」
「部屋まで送る」
月野を立たせ、十夜は部屋まで彼女を送り届けた。
夕暮れの桜も、昼間とは違う趣があって、綺麗だと思う。
帰り道の途中、月野は何気なく、桜の木を見上げていた。
十夜は何も言わず、待っていてくれる。
あの夜以来、なんだか十夜との間に、距離を感じる。
あんな質問をしてしまったから、怒っているのだろうか?
「あ、電話」
制服のポケットから聞こえたのは、懐かしい音楽。



