「グホッ―――!」
耳に聞こえたのは、浦部の苦しげな声だった。
気づいた時には、十夜の腕の中にいた。
視界を覆った黒の正体は、十夜の制服だ。
「汚い手で、月野に触るな」
低く怒りを孕んだ声は、決して大きくはない。
けれど、浦部を怯えさせるには、十分過ぎる程、冷ややかな声だった。
「あ、あ・・・・・・綾織くん・・・・・・」
縋るように、浦部が十夜の足を掴む。
その手を、十夜は無慈悲に一蹴した。
「鷹斗、連れていけ」
「はいはい。人使い荒いな。月野ちゃん、またね」
状況が未だ理解できない月野に、鷹斗の笑顔は異質に見えた。
慌てる様子のない、十夜と鷹斗。
(何? 何が・・・・・・?)
わからなくて、頭が混乱する。
浦部は何をしようとした?
どうして、ふたりは平然としている?