「十夜くん、約束―――忘れないように」
「・・・・・・はい」
十夜は苦笑しながらも、真っ直ぐに慧を見つめ返した。
「いい目だな。上出来だ」
慧は電車に乗り込み、優しい笑顔を浮かべて、月野に手を振る。
電車が走り出せば、あっという間に見えなくなる。
生まれ育ったこの地が、今でも好きだ。
忘れたことなどない。
ただ、それよりももっと、大事なものができただけ。
「今から帰るよ、真白」
愛しい妻のいる場所が、いつだって自分の帰る場所。
慧は、ゆっくりと紅玉館に背を向けた。
「さてと、買い出しをしてから紅玉館に帰ろう」
椿は大きく伸びをする。
「荷物持ちは?」
「いるに決まってるでしょう。月野ちゃん、今日はごちそう作るからね」
椿は秦を引き連れて、駅を後にする。
「綾織くん」
「ん?」
「お父さんと何を約束したの?」



