これでまた、しばらくは当主の椅子に座り続けねばならない。
「月野を、よろしく頼みます。母上」
「お前より、よほど素直な子だものね」
美鶴の嫌味に、慧は笑う。
長年離れていた母の姿は、記憶のものより、ずっと痩せていた。
それでも、凛とした雰囲気は何一つ変わらない。
「母上。幸せですか?」
「・・・・・・お前が知るべきことではないわ」
家を捨てた、無慈悲な息子。
人間の女を選んだ、愚かな息子。
ならば、母のことなど気遣うな。
「―――こんなことを言える立場ではないとわかっていますが・・・・・・。長生きしてください、母上」
「・・・・・・」
慧の言葉に、美鶴は目を見開く。
逸らしていた視線を、息子に向けたくなる。
「家は捨てましたが、家族を捨てたつもりはありません」
たとえ、どれ程離れていたって、母親はあなただけ。



