椿の笑顔は、いつもと何一つ変わらないもの。
月野は胸の苦しさに目を背けて、教会の外へと走り出した。
「―――覚悟はできてる?」
「君と殺し合えるなんて、幸せだよ」
嬉しそうな静貴に反して、椿は真剣そのもの。
ナイフを握る手は、無駄な力を込めない。
獲物から目を逸らさない。
一瞬の油断もするな。
感覚のすべてを研ぎ澄ますこの緊張感。
「・・・・・・」
「君と僕は、“同じ”だよ」
静貴の囁きに耳を傾けながらも、仕留める最大の好機を探る。
命のやり取りは、いつだって彼女を美しくさせた。
「君だって、気づいてるはずだ。自分の中の、破壊と生を求める、狂った性を」
「・・・・・・そうね。確かにあんたは私と同じかもしれない」
椿の目は、静貴の隙を見逃さない。
それが、椿を誘うための罠だったとしても、知りつつ乗るのが、花村 椿という女。
「でも、あんたが私と同じでも、私はあんたと違う!」



