彼の心を理解するのは、不可能だ。
受け入れ、この腕に抱きしめても、彼の心は安らぎを得ない。
求めるのは、“今”を“生きている”と感じさせてくれる、刹那の破壊。
あぁ、狂っている―――。
「あ!」
月野を捕まえよう、静貴が手を伸ばす。
逃げようと背を向ければ、遅かった。
白く無垢な手は、狂った男に捕まえられた。
「離してっ」
「君は奇跡だよ。僕達の運命を、こんなにも変えたんだ」
そう、運命は変わった。
月野があの日、電車から下り、この地を踏み締めたあの瞬間から。
運命の輪は、大きく動き出したのだ。
「お願い! 離して!!」
痛む腕から新たな血が流れ伝い、教会の床に落ちる。
ナイフを持つ手が震える。
この手に持った刃なら、彼に再び、癒えぬ傷を負わせることができる。
しかし、また傷つけてしまうという恐怖が、迷いを生む。
奇跡だとかそんなんじゃない。
自分は普通の―――。



