「どうだろうね。兄さんが家を捨てた時、俺は世界の中心を失ったんだ」
伊織の心は、母・美鶴によく似ていた。
愛する夫が世界の中心であったように、伊織には慧が、世界の中心だった。
家を捨てたと聞いても、そこに失望も何もない。
ただ、壊れていっただけ。
「俺には、音無もヴァンパイアもどうでもいい」
当主の座にも興味がないし、姉のようにヴァンパイアの誇りなど知らない。
慧がいなくなったあの日から、彼の心は空っぽだ。
「そんなあなたが、どうして静貴に従うんですか?」
十夜の言葉に、伊織は小さく笑った。
「従ってるつもりはないなぁ。俺は、彼に利用されてるだけだ」
空っぽの自分に手を伸ばした静貴。
そこにどんな思惑があるのか、伊織は知らない。
「利用? それでいいんですか?」
「いいと思ってた。けど、今は違う」
伊織は立ち上がり、十夜を真っ直ぐに見つめた。



