もし、摩耶が許婚とならなかったら。
もっと早くに、自分の気持ちを伝えていられたら。
何かが変わっていたのだろうか?
「そんなこと、考えても意味ないな」
仮定の話など無意味だ。
自分は今を生き、あらゆる行動の結果が、今を作り上げている。
―――コツ・・・・・・ッ。
足音が聞こえ、十夜はゆっくりと振り返った。
「・・・・・・伊織さん」
「やぁ、十夜くん」
伊織は、変わらない笑みを浮かべて、長椅子に腰掛けた。
(静貴は―――)
「俺ひとりだよ」
心を読んだかのような台詞に、十夜は驚きながらも警戒を緩めた。
「兄さんと姉さんで、よく遊んだんだ」
ステンドグラスを見つめる伊織の目は、穏やかだ。
「あの頃は、兄さんが人間の女を愛するとも、家を捨てるとも思わなかった」
「・・・・・・失望しましたか?」
十夜の問いに、伊織は困ったように笑う。



