摩耶の振り下ろされたナイフから月野を庇ったのは、十夜だった。
月野を抱きしめ、その視界を自身の顔で覆った。
見えるのは、青い顔で自分を見つめる十夜の顔。
「無事、だな・・・・・・?」
「無事じゃないわ・・・・・・。綾織くん・・・・・・」
摩耶のナイフは、深々と十夜の背に突き刺さっている。
背中に手を伸ばそうとする月野を、十夜が掴んで首を振る。
「すぐに治る」
現に今も、傷は治っている。
ナイフを抜けば、血が流れ出し、畳に血の海を作り出す程だ。
「秦、摩耶を連れていきなさい」
「は、はっ」
冷静な時臣の声で、秦は慌てて動く。
「十夜? どうしてその女を庇うの?」
摩耶を連れ出そうとするが、頑なに動こうとしない。
「血が出てるわ。・・・・・・私が刺したの? 違うわ、違う。私は刺してない。刺してないわよねっ?」
秦は強引に、摩耶を大広間から連れ出す。