十夜の問いに、伊織は苦笑した。
「彼は、そう思ってるだろうなぁ」
緊張感のない伊織だが、言い知れぬ存在感が彼にはある。
「光彦くんは、当主になりたいらしい」
「知っています」
虚勢ばかりなのに、野心家の一面さえ持つ光彦。
十夜さえいなければ、恐らく次の当主は光彦だっただろう。
「でも、それ以上に彼には納得できない事があるらしい」
「納得できない事?」
伊織は思わせぶりに笑って、話をゆっくりとしか進めない。
彼のペースに飲み込まれてはいけない。
「ヴァンパイアは人間より優れている。そのヴァンパイアが、何故、人間の目から逃げるように生きなくてはならないのか、だそうだよ」
まるで他人事だ。
伊織は感情の見えない笑顔を浮かべ、淡々と話す。
「それで、咎堕ちを逃がしたと?」
「人間達に、ヴァンパイアの力と恐ろしさを見せつけるには、咎堕ちを放った方が早い」



