8月に入ったその日。
十夜は書斎を訪れていた。
冷房の効いた室内で、美鶴が黙々と仕事をこなしている。
「何の用です?」
「一度、本家の様子を見てこようと思います」
十夜の言葉に、美鶴が顔を上げた。
書類から手を離し、十夜を真っ直ぐに見つめる。
「咎堕ちの件もありますし」
「私も、頼もうと思っていたのよ」
美鶴は席を立ち、ソファーへ移動した。
十夜も腰を下ろし、室内に張り詰めた空気が満ちる。
「伊織が、綾織家に出入りしていると聞くわ」
「伊織さんが?」
「えぇ。しかも、小野瀬の話しだと静貴も一緒だとか」
綾織家に音無家の者が出入りしても、さして珍しいことではない。
ただ、出入りしている人物が問題なのだ。
伊織は、自ら進んで他者の家に足を運んだりしない。
「何のために・・・・・・」
「あの子の考えることなど、私にはわからないわ」