いまだに引き摺っている。

一目ぼれを否定し、惹かれてや

まない双眸を携えた男。


あれ以来、時間帯をずらしたの

で電車では見かけていない。



自分もそんなことでうじうじし

ている場合ではなくなってきた。

大学4年のこの時期は、内定の

ひとつやふたつ貰っていて当然

の時期なのだ。

章子の大学名ならばある程度の

企業が目に留めてくれるかも

しれないが、大学名で選ばれた

ところなどこちらから願い下げ

である。

人物重視と言って大学名を一番

先に言わせる企業も同様。

だが、そろそろ考えなくては

いけない時期だ。

いつまでも理想ばかり追いかけ

てはいられない。






「そういやさ、お前就職どうす

るよ?」

健は問う。

「スーツじゃなくても良い会社

に行きたいな」

と、ふざけた答えを返すも、彼

は頷く。

「はぁ、なるほどね。俺なんて

奇跡でも起こんない限りフリー

ターかもなぁ」

明るく笑う健に、また章子はた

め息をついた。





「………奇跡、ね……」









現実なんてそんなものだ。



奇跡なんて―――――

起こらない………………。