「ああ、そうだな」

彼らはあいている席に並んで腰

を下ろすと何かを話しながら笑

っていた。

やはり男は背が高かった。

章子が160センチくらいなので

きっと彼は180センチ近くある

のではないだろうか。



だが、はじめてあの人の声を聞

いたというのに、途端に、章子

は後悔していた日常に引き戻さ

れる感覚を味わう。

考えても見れば当然…なのかも

しれない。

総じて、人の目を惹く何かしら

の魅力を持っている人には、そ

の隣りに誰かしらがいるものだ。



章子は次の駅で電車を降りよう

と思った。

盲目になった挙句、「変」とい

う字と似ているなと彼女は自嘲

する。

人を愛するのに理由は後から引

っ付いてくる。

そんな風に考えると同時に、

そんな相手と同じ気持ちを持つ

ことができるという事は、やは

り奇跡なのだろうと思う。



だがそこで、章子は思いあたる。

自分が惹かれていたのは、この

後悔し続けるであろう日常を変

えてくれそうな、あの人の双眸

だったのではないだろうかと。


そう考えた瞬間、あの人に対す

る自分の想いが、酷く浅ましい

ものに感じ、彼女は大きく眉根

を寄せた。

そうではない、と否定しながら

も、第3者の干渉で変化するかも

しれないという、ぼた餅の様な

発想がある事は、事実だった。