男が降りる駅と章子の降りる駅

は偶然にも同じであるのだが、

改札を出るころにはもう男の姿

はどこにも見当たらなかった。

もしかしたら、改札口が違うの

かもしれない。

章子が出る改札口は学校の多い

方で、もうひとつの改札口は会

社が多い。




何故、自分でもあの人がこれほ

ど気になるのかわからない。

ただ章子はその男の瞳に惹かれ

ていた。

あの双眸に、自分の姿だけが映

ったとき、どのような変化が起

こるのだろうか、と。

何度となくそう考え、そしてそ

れが恋だと気がついたのは、

つい最近だ。

その頃から彼女の日常は180度

回転をし始めたのだ。




一目ぼれだとか、そんな事を言

うつもりはなかった。

そもそも章子は、一目ぼれを認

めてはいない。

一目見て惚れるだなんて、相手

の何を見て惚れたというのだ。

そんな事は決まっている。

相手の外見に惹かれたのだ。

だから章子はそれが許せなかっ

た。

過去、幾度となくその一目ぼれ

をされ、外見で近寄ってくる男

たちを見て、うんざりしていた

事は忘れようにも忘れられない。

だが今の自分はどうだろう。

相手の事を何も知らないのに、

一人の相手に心を奪われている

ばかりか、後悔していた日常さ

え変貌しようとしている。




そんな風に章子の日常は毎朝、

かの人を見ることから変わり

始めていた………………。