男はそれには気付かず、かけて

いたメガネを押し上げると、

目を細め頬をほころばせた。

「君が、春日井さんか。今日か

ら君の指導をする藤堂和義だ。

よろしくな」


「………………………」


章子は目睫の間の男を見上げ、

呆然とした。





長身に少しだけ茶色い髪。

メガネに隠されてはいるが

志の強そうな瞳は切れ長で、

少し怖そうな印象をうける―。





「………どうかしたか?」

凝視する章子に、彼は首を傾げ

る。



「………………………」




「………春日井さん?」






「―――――

    ―――………奇跡だ」









〈了〉