慎一の怒りは並大抵のものじゃなかった。天上界に殺されかけたのだ。
あれから、エレーナとは全く口を利かなくなった。
  
 持田夏穂が心配して訪ねて来た。
「お兄ちゃん、大丈夫? エレーナさんから全部話は聞いたよ」
「ごめん。今は誰とも話したくないんだ。それにエレーナからも聞いただろう?
今の俺は、すごく危険な状態なんだ」
「お兄ちゃん……」

 一方その頃天上界では、今後の対策が話し合われていた。
幹部達はもちろん、ジェシー、エレーナ、そして多くの天使達が集まっている。
「これを御覧下さい。これは、宮原慎一のマイナスエネルギーの状態を示したものです」
イザべラ幹部は、慎一のマイナスエネルギー値データーをスクリーンに表示させる。
「こっ、これは、以前よりかなり大きくなっている」
ジェシーは愕然とした。会議室がざわついた。
「私達の軽率な行為により、慎一の激しい不信感を買い、
その結果、彼のマイナスエネルギーをかえって巨大化させてしまいました。
既に慎一のマイナスエネルギーは、彼の中に収まる範囲の限界に達しており、
いつ暴走してもおかしくありません。
こうなった責任は、私達天上界にあります。
私達は、誰一人傷つけずに慎一を救わなくてはなりません。
そして、何としてもマイナスエネルギーの暴走をくい止めなければなりません」
居合わせた一同に動揺が広がった。
「このことは、慎一さんに伝えたほうがよいでしょうか?」
エレーナは、本人に話すべきか悩む。
「それは、言わないほうがいいわね。今の慎一は、非常に不安定です。 
余計な事を言えば、彼が自暴自棄になる可能性があります。
そうなれば、マイナスエネルギーは、さらに危険な状態になりかねません」
イザべラ幹部は慎重な対応を即す。
「じゃあどうすれば……」
ジェシーは焦る。
「マイナスエネルギーは、自己防衛しようとします。
私達に反発したのは、そのためです。
それを抑えるには、慎一自身がマイナスエネルギーの浄化を強く願うしかありません。
そして私達を心から受け入れることです。
そうすれば、マイナスエネルギーは私達に反発せずに浄化されます。
そのためには、彼を説得する必要があります。
しかし、今の彼が私達の声に耳を傾けるかどうか……」
イザべラ幹部は顔色を曇らせた。

 斉木綾香も慎一を心配して来た。
「エレーナと全く口を利いていないそうだね。