ハジメテヒトヲ…


そんな毎日を過ごしていたある日

花音は、学校が休みだった。

でも、私は普通に学校だったため
いつも通り学校に行く支度をしていた。

そして玄関で
いつも通り、本当にいつも通り
「行ってきます!」と言って私は家を出ようとしたんだ。

すると、ドアを開けたと同時に

「行ってらっしゃい」

花音の声がした。

後ろを振り向くと

何ヵ月ぶりにみただろう…?

花音は、私に

本当の笑顔をみせてくれていた。

目に涙をいっぱい溜めて…

「何で泣くの?ただ学校行くだけなのに?」

私は何だか嬉しくて、笑いながら花音の方へと向き直る。

「何となく」

何となく、なんて当たり障りのない言葉だったけれど

花音が笑ってくれているなら、理由なんてどうでもいい気がしてきた。

「…詩織」
「ん?」
「愛してるよ…」

愛してる。

家族だから当たり前だと、今まで言葉にして言ったことなんてなかった言葉。

でも、たまには言葉にしてみてもいいかもしれないね。

「…私も、花音のこと愛してる」

私達は

笑いあった。


「ん…じゃあ、本当に行ってらっしゃい」
「うん、行ってきます!」

今度こそドアを開けて

私は、花音に手を振った。

その時、花音は何かを言っていた。

でも、私には聞こえず、口の動きだけが見えた。

『いままで、ありがとう』

その時の私は

「改まっちゃって、どうしたんだろう?」

ぐらいにしか思っていなかった。

その意味を考えもせずに。

私は、花音が笑ってくれたことが嬉しくて舞い上がっていたんだ。

友達に

「どうしたの?」

なんて言われたくらい。



それが…

私が見た

花音の最後の笑顔だった。