あたし達は、主さんの住んでいる沼のほとりまで来た。

「主さぁぁ~~んっ!」

沼に向かって声を張り上げる。

「あたし、無事に帰ってきましたぁ! 元気です!」


主さんはあの後、姿を消した。

お礼を言いたくて何度かここへ来たけど、一度も会えないでいる。


「気まぐれな奴なのでな。明日姿を現すか100年先か、分からぬ」

絹糸がそう言っていた。

それを聞いてちょっと寂しかった。

それでも主さんは、確かにここにいてくれる。


「主さぁん! ありがとう!」


沼の向こうで、水の上辺がゆらりと揺れたように見えた。



「ねぇ門川君」

「なんだ?」

「こっち。ちょっとこっち来て」


もうすっかりと辺りは暗闇に包まれている。

そんな中あたしは門川君の手を引いて、あの場所へ向かった。


あの、植物と動物の世界が一転している場所。

夜の間は植物が活動する、あの幻想のような場所へ。



植物たちはあの時のように、枝や葉をおぼろに輝かせている。

まるで虹のように様々に色彩を変えて。

愛を交わす相手を求め、さまよい歩く。


絡み合う枝先。

ためらいがちに触れ合う花びら。

口づけを交わす木々たち・・・。


「こんな場所があったなんて・・・」

門川君は感嘆の声を上げた。

「素敵な場所でしょう?」


あたし達は並んでその場に座った。