永守様は、よく庭を散策なされた。

わらわを誘って。


『華子、ごらん。紅葉のなんと見事なことか』

『おっしゃるとおりにございまする』


紅葉の何が見事なのだろう?

ただ葉の色が変化するだけの事なのに。まったく理解できぬ。

だが永守様のお言葉に逆らってはならぬ。

わらわは、同意した。


教育された通り無表情に、そして抑揚の無い声で。


『・・・華子はどの季節が一番好きかな?』

『永守様の一番お好きな季節にございまする』

『私のではなく、華子の好きな季節だよ』

『永守様のお好きなものが、わらわの全てにございまする』

『・・・・・』


教育された通りの答えだった。

全て、永守様の意に添うようにと教えられていたから。

わらわは抑揚の無い声で、理想的な返答をした。

きっと永守様は、この返答にご満足なさったであろう。


『華子の好きな花はなんだい?』

『・・・花?』

『今度、君に花を贈るよ』

『・・・・・』


好きな花など無かった。

花になど一切興味は無かったから。

だが、永守様の意に添わねばならぬ。


『永守様のお好きな花が、好きな花にございまする』

『・・・・・』


永守様は、それから様々な花をわらわに下さった。

毎日のように。

きっと永守様は、お好きな花が毎日変わるのであろう。

だから花を贈られるたび、わらわは申し上げた。


『この花が、わらわの一番好きな花にございまする』


理想的な、ご満足いただける答え。


やがて・・・わらわに送られる花が途絶えた。

きっと永守様は、花がお好きで無くなられたのであろう