駅前のこじんまりとした喫茶店。

店の中をきょろきょろと観察したあと、カウンターにゆっくりと腰を下ろす。

刑事ドラマの再放送に没頭していたマスターが謎解きを中断し、「いらっしゃい。ご注文は何にしましょう?」といってお冷のグラスを置いた。

おでこがやや広め。

40代後半の丸顔の男がここのマスターだ。

立てかけてあるメニューに目を通し、少し考えるふりをしたのちに、「じゃあ・・・ブレンドコーヒーで」と声を発した。

本当は最初からそれを頼むつもりでいた。

なぜならこの店で一番安いからだ。

万馬券を当て、まとまった金を手に入れたとはいっても、あぶく銭はあぶく銭に過ぎない。

いずれ貯えはなくなることになる。

いつまでこの時代のトリップが続くのか、まるでわからない。

そうなると、財布のひもを固くする必要があると思ったのだった。

ここはふだん、マヤがアルバイトをしてるお店だ。

アパートから歩いて5分といった立地である。

駅の併設されたビルの一角に間借りしているのだった。