始まりから、終焉を迎えていた。

それまで、誰一人気が付かず過ごして居た日常の中で判る筈もなく、
無意識に永遠を望んで居た報いかも知れない。

彼女は佇んだ。

血のような水溜まりが、いつしか池に変わり…
様変わりするたびに、大きくなって居るからだ。
「いつか、海に変わるな…」

彼が呟いた…。

彼女は声のする方へ振り返ったが、声の主は居ない。

居るはずはない。
彼には肉体が無いからだ…。

彼女の中に共存している存在。

宿主の彼女は溜め息を付いた。

「アナタは、冷酷過ぎるのよ…もう少し慈悲の心を持てば、あの方に近付けるのに…。」

彼女の語尾の最後は消え入りそうで、彼は最後まで聞きとれなかった。
「お前が、やらないから俺が動くだけだ。
慈悲の心?笑わせるなよ…お前がそれだから毎回…って、言っても仕方ねぇや。実際、お前に近付く気にはならねーからな…お前の慈悲に反吐が出るよ。」
鼻で笑いながら、彼は目を閉じた。
「私に近付けではないけど…聞こえなかったのなら、もう良いよ。」
もう良いよ…。
この言葉を何度繰り返しただろうか。
繰り返すたび、スイッチが切り替わり、彼は躊躇いもなく剣を振り上げるのだ。
あの方が付けた安全装置と言える彼の存在…。

「変わりたいと思った事ない?」
あの女の子は誰だろうか…女の子…否。
あの子は男の子だったのだろうか?
今となっては思い出せない。
多分、彼は元々肉体を持たなかった訳ではない。自ら捨てたのだ。
なぜ捨てたかは、聞いてない。
ただあの方が絡んで居るのは確かです…。
「ええ、あの方が絡んで居るのは確かです。」
老婆が言った。
見た目は老婆だが、本来の姿は知らない。
ただ、自分の判らない事に対して的確に答えてくれた教師だった。
言葉と共に記憶が交錯する。
老婆は…あの時を境に消えた。
「答えは、あの方に聞いて来ましょう。」
そう言い残して。

ああ、女の子だ。
聞いてきたのは女の子。私は何て答えただろうか?
「変わりたい?変わりたいよ。けど、誰もこの…この…」
何だっけ?私は何に縛られてるのか…手を見ると何も巻き付いて居ない。足を見ても何も絡んで居ない。
身体は?
無数の手足が絡みつく。どうやって、地上に上がろうかともがいて居る、虚無の輩。
「ぼーっとしてんじゃねえよ!」
タールに近い存在が、瞬く間にどす黒い池になった。
どす黒いのに、こんなにも激しく朱いのは何故だろうか?