死ぬのは怖い。 しかし、死ぬのは嫌ではない。 そんな危うさのなかに、私は生きていた。 「未来へ進むのは、過去へ戻るよりずっと大変で、だけど、ずっと簡単なんですよ」 《未来へ進むのは、生きるだけでいいんです》 そう彼の声がしたけれど、いつの間にか姿は消えていた。 《しかし未来へ進むには、過去の重力に逆らわなくてはならないから、ずっと大変なんです》 残り香のように声だけが漂う。 天を仰いだ。 星明かりが美しい夜だった。 どこかで梟が鳴いた。 [了]