感想ノート


  • 僕の彼女は、車に乗ると豹変する。いや、正確には、助手席に乗ると豹変する。いいや、もっと正確には、発 狂する。
    一時間高速で車を飛ばし、さあもうすぐ降りようかと思った僕に――
    「待て」
    と彼女は突然言った。
    普段なら、その肩から羽織っているグリーンのショールがよく似合う、優しい口調なのに、
    「待て。まだ車を走らせろ」
    今の彼女と来たら、研ぎ澄まされたコンバットナイフのように、鋭い声と目をしていた。
    「つけられている」
    と、彼女は言う。

    「え?」と僕。
    今日は隣の県の温泉へ小旅行へ行こうって話なのに? そして僕らは、つけられているもなにも、ただの大学三年生なのに?
    「後ろだ。黒のセダン。ぴたりとついてきているぞ。――間違いない。ヤツだ」
    ヤツだって……だれですか。友達にそんな、セダンなんて乗り回す人いません。
    バックミラーで確認すると、たしかに。ぴったりついてくるセダン。車線を変えても、スピードを変えても一定距離を保ってくるセダン。なんなんですか。
    「くっくっ」
    と、彼女が笑う。いつもの、冬にふと味わう日だまりのような柔らかさはない、凶悪な笑みだった。
    しかも右手がいつのまにか、構えている。
    「いいだろう。相手をしてやるさ」
    どっから取り出したのか、水鉄砲を。
    「ちょっ待っ!?」
    なんて驚いているうちに、彼女は窓を全開。しなやかに体を操り、上半身を乗り出した。後ろを向き、アクション映画さながらのポーズで水鉄砲を撃ちまくる。かしゅんかしゅん。
    「ちっ」という舌打ちが、ぶぉうぶぉうと響く風の音に混ざった。彼女が戻ってくる。たま切れらしい。
    「ヤツらめ、撥水加工してやがる」
    「当たり前だろ!? 迷惑だからやめろって!「うぃんうぃん動いている」
    「ワイパーだよ!」
    「最新鋭というわけか」
    「標準機能です!」
    「おもしろい!」
    「なにが!?」
    「組織のテクノロジーがあれほどとはな!」
    「だから標準機能ですっ!!」
    というか組織ってなんですか組織って!
    僕の彼女は、助手席で発 狂する。そのふわりとしたシルエットのスカートをまくしあげ、太ももから手榴弾を取り出された時、
    (も、ダメだ)
    僕はいろんなものを覚悟するしかなかった。

    紅 憐 2009/08/05 06:31

  • 藤乃奴〉

    なぜ吉野…小梅とかだったり(まてい

    そういえば、確か「烈火の炎」に自分の血を使って攻撃するやつ、いたような…

    ばぼちゃん〉

    感想の用意はできておりますわよ。

    疾風雷神 2009/08/05 01:16

  • うぉ〜!!かっちょいい。
    疾風さん、そんな単語を使いたかったあたしです。怖がりだとカマトトぶっていましたが(?)意外と黒い世界好きかもです。

    太夫……吉野に名前変えてきます!←おい


    ぐれさん、とりあえず寝ちまえー。

    藤乃 2009/08/04 23:08

  • こちゃわ←「こんにちは」と言いたい

    そんな疲れてる紅 憐です。

    ……うん、疲れました……←なにがあった(笑)

    紅 憐 2009/08/04 16:06

  • 藤乃太夫〉

    『滴り落ちるはずの鮮血が、蛇のように女の肢体を這い登る』

    とか入れると…もはや完膚なきまでにホラーですな…

    なんか、怪物王女か地獄少女の様相やね。

    疾風雷神 2009/08/04 00:35

  • 疾風さん

    これがダークなのか!←気付いていなかった

    そういえば、表情の描写がない(゚Д゚;)やっぱり読んでもらうと気付く事が多いです。

    ありがとうございました。

    ぐれさん

    おはようございます。←今更

    まさしくファンタジー(感動)またひとつ書けるジャンルが増えたみたいでよかったです。

    ありがとうでした。

    藤乃 2009/08/03 20:37

  • おはようございまあす


    うひゃぁ、朝っぱらからダークファンタジーだぁ♪ふじのんカクイー!
    ダーツの矢が〝力〟で作り出されたとこがまさしくファンタジーだし、受けた傷によって出た血が力になる女っていうのも、うまいどんでん返しです。

    紅 憐 2009/08/03 09:28

  • 藤乃さま〉

    なかなかダークでいい味出してます。

    ファンタジーというよりホラーぽいかな?

    女の表情とかの描写がもう少しほしいような。


    これ、いじってみたらおもしろいかも。

    疾風雷神 2009/08/03 01:53

  • やっとでけた〜

    「ファンタジー」「驚く」「ダーツの矢」です。

    ファンタジーかな?それよりも驚くか?

    藤乃 2009/08/03 01:32


  • ――トスン……トスン……

    少しの月明かりだけの暗い部屋。静かなその場所に、壁に刺さる矢の音だけが響いていた。

    「いっ……」

    腕をかすめた鋭い矢先に、女の顔が歪む。

    「痛いのか?」

    数メートル離れた場所から、悪びれた様子もなく、女の痛がるさまをニヤニヤと嫌らしく見つめる男。

    男は、鋭いけれど重たいダーツの矢を、的に見立てた女に、次から次へと投げていく。

    喜びに満ちた掌から放たれるダーツの矢は、鎖で自由を奪われた女の頬に、ドレスから覗く足元に、沢山の傷をつくっていた。

    「この矢は、少し特殊でな。 俺の力を込めて作った」

    その矢は的に合わせたかのように、太く、それでも矢先は鋭く尖っていた。

    ぐったりと頭を落とす女に近寄りながら、男は続ける。

    「力を生み出す“気”を奪えば、お前みたいな女でもこの有様」

    女の長い髪を掴み、頭をグイっと持ち上げる。

    「俺はお前の気を奪える」

    矢の先が女の頬をするりと撫であげる。

    「――んふふっ」

    「何、笑ってやがる!」

    突発的に矢を女の肩に挿すした男は、辺りの異変に気付き、息をのむ。

    そのただならぬ気の乱れに、思わずジリジリと後退り、身構えた。


    「浅はか」


    バーンという音と共に、女の両手首の鎖は弾け飛ぶ。

    首の鎖に自由になった両手をかざせば、ポロポロと、まるで魚の鱗のように剥がれ、キラキラと舞うように落ちていく。

    残った両足首に付けられた鎖など、そこにはないかのように、一歩を踏み出す。

    破れたドレスが踊り、女は肩に刺さるダーツの矢を抜いた。

    血で濡れた矢を、美しいフォームで構えたが、手首がしなるころには、すでに女の手を離れていた。

    「この体は痛め付ければ付けるほど、喜ぶ……血の衣装を纏えば、どんなに硬く丈夫な鎖も、ほどくことができるであろう」

    赤い光で包まれたダーツの矢は、一直線に男の額の真ん中に突き刺さり、男と一緒に弾け、燃えるように消えた。

    「我から気を奪うことはできぬ」

    血は力。

    血は喜び。

    「痛みは喜び、そして気なり――」

    月明かりに照らされた、真っ赤なドレスが、ふわりと揺れていた。

    藤乃 2009/08/03 01:25

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