感想ノート
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スグハ 2011/02/12 22:00
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「そんなことしたってムダだよ」
畦道に佇む男が、田植えをする老人に呼び掛ける。
「あと3ヶ月で、この星は消えちまうんだ。収穫はできないぜ、ソリスティア」「ガリエラよ、そういう問題ではないのだよ」
老人が顔を上げ、分厚い手袋を外しながら言う。
「一杯やるか」
水筒の緑茶を二人でラッパ飲みする。
言葉もなく、喉を鳴らす音だけが聞こえる。
いや、時折響く重苦しい地鳴りが、星の命に終わりが近いことを告げている。
「我々はこの星で産まれ、育ってきた。ただ棄てて行くことなどできんよ」
そう言うソリスティアの眼前で、僅かずつではあるが水が渇れていく。それが見て分かるということは、地熱温度が耕作どころではないほど上がっていることを示している。
「俺はもう行くよ。あんたも急げよ」
ガリエラは宇宙港に向けて歩き出す。
「最後の舟には間に合うさ」
ソリスティアのその言葉が嘘だと分かっているから、振り向くことはできなかった。疾風雷神 2011/02/12 03:25
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理由マチコさんの作品、表現がすごいなあと思いました。
キャラの心情が伝わる音の表現とか。こんな風に描けるんだ、と一人唸っていました。
憐さんの作品、音が一杯聞こえました。彼女が歌っているのが童謡(ですよね?)だったのが後半の展開とギャップがあってちょっと怖かったです(/_;)彼女がそれを望んだのは絶望ゆえか贖罪のためか気になります。←読み取れなかっただけかも
梅若さんの作品、ゆるゆるした空気の中にどこか緊張感を感じました(感覚人間なので……間違っていたらすみません)彼女の問いに対する彼の回答は正解だったのか気になりました。歴史知っていれば分かるのかな。
空波さんの作品は読めませんでしたごめんなさい!!ホラー絶対駄目体質なんです、すみません……
みなさんの作品を拝読させて頂いて、やっぱり自分のには音が足りないと。
も一回練ってみようかな。結希千尋 2011/02/12 02:18
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間に、合った……
携帯で千文字カウントしたのに何回も弾かれて必死に縮めました(>_<)
何回も脳内映像見直して音を拾ったのですが……。いかに語彙が足りないか痛感しました。
はあ。
でも、参加出来てよかった。
よろしくお願い、します……←果てている結希千尋 2011/02/12 01:21
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●氷を浮かべたグラスの肌を大粒の滴が滑り落ちる。
暑い季節を迎えるというのに、彼女は何故か手袋を編んでいた。
猛烈な勢いでトタン屋根を叩いていた夕立が去り、空に明るさが戻る。傾きかけた日差しが雨雲の後ろ姿に虹を描いた。
「行きましょうか」
「ああ」
彼女に支えられて立ち上がる。いつもより少し遅い時間の散歩。雨が止むのを待っていたかのように鳴き始めた虫達の熱唱を聞きながら、僕達は歩を進めた。鏡のように空を映す水に規則正しく植わった緑色が眩しい。
「今日は遠回りしましょう」
彼女に腕を引かれ、子供の頃よく通ったあぜ道へ向かう。二人並んで歩くのがやっとな細い道。
「昔よくこの道で駆けっこしましたね」
「そうだね」
一度足を踏み外して水田に落ちたっけ。泥に足を取られてもがく僕を心配した彼女が、先の夕立のような声で泣いて助けを呼んでくれた。
「あの頃から泣き虫だったね君は」
「ええ」
蛙だろうか。どこかで水音がはねた。アメンボが水面をリズムよく滑っていく。
「あの案山子、覚えていらっしゃる?」
彼女は少し先に立っている案山子を指差した。時の流れを思わせるくすんだ色の服。煤けた色の帽子に止まっていた鳥の羽音が僕らの頭上を過ぎて行く。
「まだあったんだ」
「ええ。懐かしいでしょう?」
「ああ」
幼い頃は二人で毎年服を替えに来た。中学に上がってからは案山子の手袋をポスト代わりにして他愛無い内容の手紙を交わした。そして。
「あの日あなたが下さった手紙は一生の宝物です」
彼女に想いを伝えたのもこの手袋越しだった。
「懐かしいな」
自分と丈が変わらなくなった案山子を眺める。が、ふと視界に違和感を感じた。案山子の右手だけが真新しい水色の手袋をはめている。そう、昔手紙を交わした方の手が。
「この手袋、案山子のために編んでいたのかい?」
「ええ。今日は記念日ですもの」
脈絡のない彼女の返事。不思議に思った僕はもう一度案山子を見直した。
いびつに膨らんだ手袋。その光景と昔の記憶が重なった瞬間、僕の鼓動が空にまで響きそうな程加速した。
濡れている手袋から零れ落ちたのは雨の滴と色褪せない想い、そして愛の言葉。
「こんな伝え方も良いかしら、と思って」
悪戯っぽく僕を見上げ、彼女は小鳥がさえずるように小さく笑った。結希千尋 2011/02/12 01:12
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梅若さん
ええ、そりゃあ私にも、初来店の方が凹まないように、多少の気遣いと下心はあります。
ですが……無用のようで。失礼しました。決してなめているわけではないのはご理解ください。
……うん。読み返しても、説明されたとこの一分もわからないです。
深い知識がない私。実は、最初に読んだ感想は「なに、これ?」でしたから。
ただ、説明によってわかったのは、「なに、これ?」の理由でした。
だってなぞなぞみたいなんですもの。小説というよりまるで、「この人はだあれ?」「この少女はなあに?」みたいな。
物語というより、「当ててください」。
道理で。なんか納得しました。紅 憐 2011/02/12 00:30
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高杉さん
いえ。わざわざお越しいただいて、こちらこそご丁寧にどうもです。紅 憐 2011/02/12 00:20
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理由さん
ペンペンはああ言いましたが、私は好きな感じですよ、これ。
まあ、手袋に重点を傾けきったことは、それで相殺 されるわけではありませんが。
そう、だから逆に、お題のどれかに集中すればだれでも、このクオリティを出せそうだという懸念。
三つとテーマのすべてをクリアしてその上でまだ、これだけの味わいがあるなら。それは文句なしですね。
投稿いただいた中では好き。けどもそれは、〝文学喫茶〟においては条件不満。
たぶん、バレンタインというイベントを抜きにすれば、代わりに水とあぜ道による演出ができたのではと思います。紅 憐 2011/02/12 00:19
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こんばんは。
ふ~む、あの程度で「いまいち」ですか。ぐだぐだになってしまった感ありありなんですが。
ま、初来店の客にいきなり暴言は吐けませんよな。
とりあえず、ネタばらしに再来店。
歴史が好きなもので、今回のように、期限が決まってて突発的に書くものは特に、ヒントを探る時点で歴史づいてしまいます。実在の人物を使って1000文字小説を書こうなんて無謀でしかないんですが。でもきっと、これからもこのパターン・・・・・・( ̄∀ ̄;)
まず千寿王=足利義詮(幼名)。
お題としては、三つのお題を入れるという高等技術は初めてなので、どうしても一つに重点を置いてしまいました。
メインは水。相当するのは「茶」「狭依」。
茶はともかく、狭依は宗像三女神の一柱、狭依毘売命。水→弁財天→市杵嶋姫命の、別名。
という、誰がわかるんだそんなこと、というチョイスでした。イメージは白蛇。
だから身体をあまり見せないという理由で、着物の袖で手を隠す=手袋。というのは言い訳で、すみません、手袋はモロ無理矢理です。
あぜ道もそのまま。
失礼しましたーっC=C=「(; ̄ー ̄)」藤堂 左近 2011/02/11 23:46
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理由さんの作品から。
他作品でも書いたのですが、アイテムに対する思い入れのようなものがあるとイイですね。
例えば手袋。高かったかもしれませんが、去年おばあちゃんから貰った大切な手袋……、みたいな演出で一味も二味も違ってくるような気がします。
あんまり胸が高まってチョコが溶けてしまうような心配とか、緊張のあまりのとぼけた思考などかあればより面白いですね。
退散ペンコ 2011/02/11 17:09
●晩夏の生暖かく大粒の雨が渇いた土を幾分か跳ね上げて地に斑文を描く。
稲がザラザラと鳴き愛しき妻を呼ぶ。
遠雷の音を聞きながら気ばかりが焦った。
畦を駆ければ乾いて細かくなった土が水を吸い粘って足を取る。
探し人の名を呼んだ。彼の妻になった娘の名。
町の商家から縁談があり田舎の地主の家に嫁いできたのは、結婚に焦るにはまだ幾分か若い娘だった。牛に乗り黒無垢に身を包んだ色白の娘は、彼の目には何か別の世界の生き物のように映った。
ザラザラとザワザワと稲が呼ぶ。
重く低く空気を揺する雷鳴が追うように迫る。
名を呼びまだ青い田畑を見回す。
町から来て稲を見た事すらなかった娘は、それでも馴染もうと田に出ていたはずだ。
畦の半ばに何かが落ちていた。拾い上げれば泥水に染められた農作業用の手袋が一つ。誰しも使う何の変哲も無い手袋だったが彼には彼女の物に思えた。
ザワザワと稲が呼ぶ。
稲の中に隠れていたら見付けられないだろう。最悪な事態ばかりが頭をよぎる。
大きな声で名を呼びながら畦道を駆ける。自分の方が危険な事などすでに忘れていた。
草むらに小さな塊が一つ。普段なら目にも留めないそれを拾えば先程と同じ手袋。揃いとの確証はない。しかし彼女の物ならばこの先なのか。
名を呼ぶ。腹の底から。
雨にも雷鳴にも勝るように。
ザラザラと稲が愛しき妻を呼ぶ。
一際大きな轟音に空気が揺れ、一瞬だけ辺りを光が埋め尽くした。
その名に恥じない勢いで、大気中のあらゆるものを燃やし尽くしながら稲妻が空を覆う。
小さな悲鳴が聞こえた気がした。
竦んでいた脚を再び走らせ緩やかな下り坂を行くと、簡素な屋根が付いた地蔵尊の脇に動く影が見えた。
吐く息が震える。
駆け寄り声をかけると、その人は青冷めた顔を上げた。
「大丈夫ですか」
娘は驚いた顔をした。頬に赤味が差す。よほど雷が怖かったのだろう。
「すいません。私っ」
「いえ。ご無事なら良かった。ここでやり過ごしましょう」
再び空が光り、轟音が腹をゆする。
横から小さく悲鳴が上がり彼女の手が彼の手を掴んだ。
「怖いですか?」
「いえ…あなたが来てくれましたから」
稲妻が稲を良く実らすように、彼女も彼を支えるだろう。
彼は彼女の手を握り返した。良き夫になる事を誓いながら。