そのまま睨み合うこと幾ばくか。辺りは静まり返っていた。

「あ……あかね……」

いつの間にか、出入り口に喜兵衛が立っていた。

「遅いじゃないの!!」

喜兵衛の白いシャツもジーンズも、黒い血でぐっしょりと濡れ、両手もまるで赤い手袋をしたように染まっていた。顔もまた然りである。

他には、人の気配はない。
敵も味方も、この屈強な男を残して全滅したという事実を悟ると、男は二人の部下に喜兵衛の殺害を命じた。

果たして、彼らの撃った数発の弾は、喜兵衛の左肩と脇腹に当たり、頭の上をかすめた。
ところが、喜兵衛は少しも歩調を狂わすことなく、彼らに向かっていった。

二人の部下は、負傷をものともしない敵の出現に慌てた。
しかし、再び弾を装填する間もなく、それぞれ喜兵衛の片腕にかかり、首をへし折られてしまった。

これまで見た誰よりも正気を失った喜兵衛の眼光に、阿部も不気味さを感じたらしく、「来るな!」と怒鳴った。

しかし喜兵衛は、両手を前に突き出したまま、ゆらゆらと前進し、着実に阿部との距離を詰めていく。

「ガキを殺すぞ!」

喜兵衛は止まらない。

「あっはっは!撃ちたいなら、撃つがいいさ!」

阿部は、右手にかまえた銃を投げ棄て、後ずさり、両手を振り回して、奇声を上げる。

とうとう、喜兵衛の左手が阿部の両手を一度に掴んで、床に押し倒した。

この男の豪腕には、誰もかなわない。

「首を狙いなさい」

やめろ!
男の喉から、かさかさした吐息のような叫びが、聞こえた。

阿部の身体に馬乗りになった喜兵衛は、まるで機械のように、阿部の首の左側に刃をあてがって、すばやく手前に引いた。

軽い破裂音とともに、鮮血がほとばしった。