暗闇が深まり、街が第二の顔を覗かせる、23時の東京・渋谷。
目まぐるしく変わるネオンサインと、絶え間なく耳に流れこむ喧噪の狭間。
師走の冴えた空気が、停滞していた。



その女は、10cmもあると思われるピンヒールを、苛々と地面に叩きつけるようにして、繁華街を颯爽と歩いていた。
絹糸のように美しい、風になびく黒髪が肩にかかっている。
膝まである、豹の毛皮のコートの下には、一転して、透けそうなほどに薄いキャミソールが、真っ赤に燃えていた。
その胸元を飾る金と真珠の装飾からは、女の豊饒なふくらみが零れおちそうである。
引き締まった腰から、牝鹿のようにすらりと伸びた両の脚。ぎりぎりまで短い黒いスカートに、キャミソールと揃いの紅いハイヒール。
その美しい、女の妖艶な出で立ちに、人々は羨望と侮蔑の視線を投げかけたのだった。

そして、女は苛立っていた。ハンドバッグから荒々しく煙草を取り出し、くわえた。銀のライターに親指をかけて、火をともそうとしたそのとき、女の肩を乱暴に掴む大きな手が現れた。