犬は容赦しなかった。老婆の喉笛は一瞬にしてちぎれ飛び、血が噴水のように噴き出した。犬はその返り血を浴び、そのまま彼女を押し倒して四つん這いになった。

それは、もはや人間ではなかった。

自我を忘れた犬であった。

エミルは言葉にならない声をしばらくあげ続けた。
しかし、それはヒューヒューと空気の抜けた音にしかならなかった。


不気味なことに悲鳴をあげる者は誰一人としていなかった。


その代わりに

「…うっ。…うっ。」
と言葉にならない呻きが周りから一斉に聞こえだした。皆が皆、舌をだらしなくだらりと垂らしていた。

人々は、犬達はお互いを喰らいあい、雄叫びと鮮血を辺りに撒き散らした。
その狂気は、またたく間に城中に広がった。


こうして、城は滅亡した。