父は彼をしばらく見つめた。
彼も目を逸らさなかった。

父は彼から何かを探っているようだった。
彼は、父から自分へ不透明な何かが送り込まれて来る気がした。そして、それがやんわりと伝わりきった時、見計らったかのように父は言った。


「私は犬ではない。」

たしかに父は口を開いた。それはあの悪夢で、城壁の前で、聞いたものとまったく同じ声であった。
そして、父は人としての役目を終えたかのように皿に顔を突っ込み、手も使わずガツガツと食物を貪り始めた。
それと同時に、王の目からは涙が溢れ出した。とめどない悲しみの筋が彼の頬を伝った。

「い、犬がしゃべった!まだ喋れるなんて、こりゃあたまげたぁ!しっかし、エサの食いっぷりはやっぱり犬だでな。」

クックッと黒装束の男は笑った。家畜を侮蔑する農夫のように。