「その男は十何年と繋がれてる内に、もうすっかり犬となっちまったんでさあ。」

部屋に入って来た黒装束の男が後ろから言った。

「とんでもねぇ罪人のくせに一度ここから抜け出しやがって、あんときは苦労しましたよ。」
まるで自分が英雄でもあるかのような口振りだ。

「先代様は特にそいつには目をつけていらっしゃった。犬になった今でも、まったくおっかねぇ目付きしてやがる。」

服の汚れを見るかのような眼で、男はそちらをちらりと見た。

王には男の言葉がまったく聞こえていなかった。現実を受け入れられないのではない。その現実を全て受け止めてしまったのだ。
それは王にはあまりにも惨い現実であり、その現実がこれまでの王の全てを黒く染めてしまった。
王は脱力し、フラフラと裸の男に近付いて行った。