「申し訳ございません!まさか…即位当日にここにいらっしゃるとは思いませんでしたので…」

男は何かまともな言い訳を取り繕おうと必死だった。

「よい、ひとまず中に入れてもらおうか。」
「はい、すぐに!」

そう言うと男は王を中に招き入れ、外をぐるりと見回してから扉を引いて閉じた。

「気をつけて降りてくださいね。なぜ、今日のような良きお日頃にこちらへ?」

男は訝しげに首をひねっているようだ。

―それは、私にもわからない―

王はそう思ったが、とても言える状況ではなかった。
男は黒装束に身を包み、まさに暗闇の守り人といった出で立ちだった。薄明かりではわからないが、先頭を歩くその男は、卑しい笑みを浮かべているのが容易に想像出来た。

「先代王の生前からの言伝で、私が即位する際には、まずは目を通さなければならないと言われたのでな。」

王はあたかも全てを知る口振りで話した。もしもそこに矛盾があったとしても、王に物言いするほどこの男には度胸はないだろう。