外に出ても、彼の足が進む方向は変わらなかった。
人目のつかぬところへ。
人目のつかぬところへ。

気が付けば、彼は真っ暗闇にいた。そこは城の裏手であった。さすがに人の気配はなく、辺りはひっそりと静まり返っている。城を取り囲む城壁を前にして、彼は沈黙し、佇んでいた。

まったく、私は何をしているのだろう。


そう思った時である。

…は……ない………


あの声が聞こえてきた。

私は……ない……

さっきよりも鋭く、明瞭に彼の頭に響き渡る。


「うっ…くっ…。」


咄嗟に彼は左手でこめかみを覆った。
そして……


私は犬ではない…!!

確かな声を背後に感じた。はっとして彼は振り返った。

しかし、何もそこにはいなかった。ランプを前に出し、辺りを見回したが、人影はなかった。ランプの光は淡く、城の外壁を照らすだけであった。





違和感があった。

その違和感は城の壁に近付くと、ますます大きくなっていった。

ここだけ、何か様子が違う。