初めての男友達。
初めての…二人きりの放課後。
違和感を持つこともなかった、その関係……。
私は自分の部屋の鏡の前で……
じっとその姿を見つめる。
気になるのは……
やっぱり……唇。
私のファーストキスの相手は…
大切な……
とても大切な友達。
文人の笑った顔が。
切ないあの瞳が……
離れることはない。
けれど……
微かなドアを叩く音が、私を現実に引き戻す。
返事をする間もなく……
ひょっこりと顔をだしたのは…
父以外に、誰がいるだろうか……。
おかげでほんのちょっとホッとして……
気恥ずかしい気分。
「…なんだ。…幸、いたのか。」
「………うん。」
「…メシは?まだか?」
「………!」
しまった。
どのくらい……こうしていたのだろう。
「…今から作ろうと思ってたとこ。」
「……いや。なら、久しぶりに寿司でも食べに行かないか。」
どういう風の吹きまわしであろう。
珍しい父からの誘い。
「……行く!行きますとも!」
無類の寿司好きの私に、断る理由など…もちろん、ない。
「…そうか。着替え済ませてすぐ出よう。」
……あ。
私……、制服のまま…。
「…うん、わかった!」
所詮色気よりも食い気なのか……?
「寿司」のフレーズに、少しテンションが上がる。
「…10分!待っててね。」
僅かに笑みをこぼして去る父の背中が……
大きく見えた。