ゆきんこ


数台のバスが、いよいよ列をなして。

ズラリと…並ぶ。





降車口が開いて…スッテプを降りて来る乗客に目を見張るけれど……



彼は、いない。



寧ろ、こんな夜中、この寒空の…下で待つ私に。

好奇な視線が注がれて…注がれているのがわかる。





なかなかの…気まずさだ。




続くバスからも、続々と人が…流れるようにして、降りて来る。



私はそっちにいまいか…、と。

少しだけ…歩いて。



今度はちょっと遠い位置から…眺める。





……と、


白く曇った窓…。

一番後ろの席…、その位置。





「………………。プッ…。」


思わず…吹き出してしまったのには、訳がある。




なんともハイクオリティーなドラ〇もんがそこに…
鎮座していたからだ。


数秒後には、きゅ、きゅ、とまるで指が窓を辿る音が…聞こえてくるようなスピードで。


あっと言う間に、のび〇君。




メガネのレンズが透明色に染まって。


そこから……キョロリ、と。
2つの瞳を…覗かせていた。




多分、こっちに…気づいたのだろう。

愛嬌たっぷりに…それを細めて、それから直ぐに…見えなくなった。




スッテプをゆっくり降りて来る…大きな身体。
ベンチコート、その足元から覗き見える…ジャージ。



大きな肩掛けのバッグは、いかにも部活帰りを彷彿させるような…出で立ち。





その人…
新野滉は、一番最後に…姿を現した。



スッテプを最後まで降りた時。


伏せていた瞳が…ゆっくりと前を向いて。



真っ正面から、私の姿を…映し出す。






「………変なの。」


「……?!」



新野の第一声。

ずっと聞きたかった生の声は。
まさかの…聞き違い?!



しかも、何が可笑しいのか、クスクスと…笑ってるし!




「何で俺らここに居るんだろ?」


「…………。」



「しかも、待ち人は雪と同化しちゃってるし。つい二度見したっつーの。」


言葉が…、出ない。
かわりに、反抗するが如く…パパっと身体についた雪を払い除けた。



「あれだ、どこでもドア?に、福嶋の居るところって願ったら…ここに辿り着いたって感じか。」


「……ドラ〇もんフリーク、健在だね。」



やっと出た言葉が。
最初の会話が……まさかの、アニメネタ。





「「…………。」」



色気も…何にもありゃあしないけれど。



でも、目の前に……彼がいる。




寂しさに押し潰されそうだった私の元に…突如やって来た、自由人…、新野。