ゆきんこ



『もうすぐ、家に着きそう?……つーか、待って。朝には会えると思うんだけど。』


「……?……家には…まだまだ着かないよ。今、帰り。」


『はあ?いや、帰りってのは分かってるけど…。飲み屋、遠いとこだった?」


「そうじゃなくって、宴会帰りじゃなくって…。そっちこそ、遠征終わって家に帰る所でしょう?朝には会えるだなんて…、冗談ばっかり。そっちこそ今、何処にいるの?」


『ふくしま、今出るとこ。』


「え?まだ遠征先?」


『は?だから…、ふくしま。』


「何?」

『ナニ?じゃねーよ…。だから、福島だって!福島県福島市 !』


「………ヘ?!」


福嶋……じゃなくて、福島?!



『あーもう、顔見えないと意志疎通も難しい。今すぐ、会いたいわ。』




「…………。」



新野が、福島にいる。

ついさっき、峠を越えれば…私は福島の市街地へと辿り着く所だった。



「……新野。私、さっき…少しだけ、福島にいた。」


『……エ?』


「トンネルの中で…県を跨いで。だけど雪が凄くて、引き返して来たの。」



『…………。』


「だから私…、さっきまで。新野の…近くに?」



『……今、山形新幹線が福島駅から米沢駅の区間…運転見合せになってて…。……ああ、そっか。アンタが近くに居たから…』


「……エ?」


『なーにしてんだよ、ホント。こんな夜に…そりゃあ俺は、巻き込まれる訳だ。幸が動いて、初雪は降るわ…、しかも福嶋が福島にいるって。ゆきんこ、もしやトラブル狙ってた?』



新野が私を…、ゆきんこって呼んだ。


蔑むだとか、全くそういうんじゃあなくって、感情赴くままの…しょうがねえなって、眉を垂らして笑う時の…そんな声色で。





「だって。……東京に行こうと…思ったから。」


『…………。』


「電話で…伝えられないこと、伝えに行きたかった。新野に…会いに。」


『……………。』


「限界だった。本当はいつも側で声を聞きたいし、会えるなら…いっぱい会いたい。」




『………それは…』


「でも、無理でしょう?出来なかったでしょう?」


『……でもそれは。俺も…全く同じ。』


「………。」


『だから、側で声を聞けるように…、会いに来た。今からそれを叶えたい。』


「……今から…?」


『叶うよ。今…臨時バスが出るんだ。ただ、地元までは…行かないけど。米沢駅行きの、バスが出る。福嶋は、今…どこ?』




「……米沢市…。」







『なら……、お願い。…待っててよ。』


「…………。」


『それで…、アンタの車に乗せて。他の男を先に座らせたり…すんじゃねーよ?』


「しないよ、バカ…。だって私は……」



『俺を驚かせたくて、免許とったこと黙ってたんだろ?それで…俺を一番に乗せようと思ってた。…違う?』


「……違わ…、ない。何で…?」


『わかるよ、アンタのことは大概。予想は…つく。でも、見えないから…、アンタのわかりやすいリアクションが…見れないから。確信が…持てない。因みに今、白のボンボン付きの帽子…被ってる?』


「……あたり。」


『そっか。…俺、アレ被ってる福嶋…結構好き。』


「……結構?」


『いや、だいぶ。』


「……だいぶ?」


『かなり。』


「………!」






『プッ…!あたふたしてる所、今見に行くよ。』