ゆきんこ


遠くから、聞きなれたメロディーが…流れて来る。


それは、店頭で流れていた陽気なクリスマスソングとも…違って。


毎朝嫌ってほど聞いているアラームの音でもなくて。



けれど……何度も、口ずさみたくなるような……
大好きな曲。






ゆっくりと……目を開く。

どれくらい寝てしまっていたのか…、車の時計に目をやって、ほっと息をつく。



たったの十何分しか…経過していない。



「……よし…、帰るか。」


ここから自宅まで、果たしてあとどれくらいかかるのか…。


助手席のバッグに入れたままのスマフォを取り出して、調べようとした所で。


タップしようとした親指をピタリと止めた。


不在着信…1件。





相手は、あの人……



新野、だ。





指先が、ちょっぴり…震えて。
次に起こすべき行動に…躊躇する。




LINEのやり取りの往復は、時間差があっても…数回くらいは続いたことがある。


でも、遠距離になってからは。
電話は…ほとんどしない。1度話せば、掛け直してまで話をする必要も…なかった。



それが、今。



どうして……?





手元から、メロディーが流れ始める。



さっき……耳に届いた、心地よいメロディー。





スマフォの画面には、『新野 滉』…、貴方の名前。


鳴りやまない音楽…。




よほどの用なのだろうか?
夜中に話すようなことって、何?






もしかして、


もしかして……私のことがいよいよ疎ましくなって。

顔も…見たくないから、電話で別れを告げようだなんて…



そんなことを、思い立ったのだったら。




もしもそうだったら……私は、どうしたらいい?













避けてはいけない、と…直感的にそう思った。

どんな意図が彼の中にあろうが、もう一度、話をする…チャンスだ。

汚名挽回、という訳ではないけれど。
何もしないまま、ちゃんと自分の気持ちを伝えないまま、後悔が…残るまま、簡単に諦められるような…想いではないって。


それだけは、
それだけでいいから――…


伝えたい。