朝、目が覚めると…部屋の中はまだ、薄暗かった。


足元にまとわりつく毛布を手繰り寄せて、それを頭から被ると…私はまた、かたく目を閉じる。

願わくば、かの温かく幸せな…夢の続きを見たい、と。





現実は、そうは…甘くはない。

途端に、スマフォのアラームが急き立てるように枕元で暴れだし、手探りで止めようにも…手が届かない。



どんなに疲れていようが、長年の体内時計にそう大きく狂いはなくて。



結局身体を起こす自分が…そこにいた。


フローリングに足を付けると、足の裏がヒヤリと刺激をもたらす。

家の前の通りを走る車の音。
ただ、それだけが…時おり部屋に響いて。

あとは、自分の呼吸の音がハッキリ聞こえるくらいに、静かな静かな…朝だった。

吐息が、ふわりと白く…舞い上がる。



「…………。さむ……。」


手元のスマートフォンに目を移す。


味気ない、待ち受け画面。
その上の方に並ぶ、小さなアイコンに目を凝らすのが…
最近の、私の習慣。

「来てない…、か。」

ため息がまた、白く…宙を舞う。

黄緑のアイコン。
LINEの文字は…そこには、ない。


そんな朝にもすっかり慣れた。


渋々とベッド下からスリッパを取り出して…それを履くと、閉じられたカーテンに向かって歩いていく。

『シュッ』と小気味よい音を立てて、開かれた…視界の先。


結露した窓は、やはり白く曇ってる。



私は、人指し指で…それをキャンバスに。
小さいのと、大きいの。それら二つの丸を合わせて…『あの』絵を描く。

いびつなソレでは…ない。
指先がぶれることなく描かれた雪だるまは、ちゃあんと雪だるまだって判る。(…と、思う。)

ただ…

ただ、描き終えた側から、たらりと雫が…雪だるまを融かすようにして。

縦に滴り落ちていく。


目も描いていない筈の雪だるまなのに、まるで…泣いてるみたいだ。



絵は、書き手の心情を表すと言うけれど。
こんな絵心ない丸に何が分かるのだ、と。掌でソレを…一気に消した。

露になった、ガラスの向こう側の景色に…
夢の中で穏やかに微笑んでいた、あの人が居て。

いつかみたいにこっちを見上げていればいいのに…。

そんな淡く儚く、無駄な期待をしながら、まだ重たい瞼をこじ開けて…そこから覗きこむ。


「……ん…?」


ぼんやりと、浮かぶ…人の影。


まさか、と、はやる動機を払拭させるようにして。

勢いよく、窓を開いた。