隣にいてくれる
この優しい人には気づかれたくなかった。













「…カンナ…マジで言ってんの?」









胸の中で、
行き場もないくせに消えてくれないこの気持ちなんて


かき消して欲しかった…











「うん……」









あたしの中に膨らんでいく寂しさも

向かう方向の違うこの気持ちも…



きっと
この優しい腕の中なら

忘れられる。







…きっと忘れさせてくれる。












通いなれた稲本君の部屋

飲み会以外でお邪魔するのは、これが初めて。




どこに何があるのかさえ知ってるのに

2人きりのこの部屋は

なんだか知らない部屋みたいだった。











「…カンナ…」








あたしの名前を呼ぶ声




一瞬

頭をかすめるあの顔に心臓が大きく音をたてた。






抱きしめられる腕の中


ギシッと
音を立てるベッドに倒れ込みながら












…竜希
バイバイ…







そう…

ゆっくりと瞳を閉じた時だった。