その日の前夜――。
夜も更けて、行灯の仄かな明かりが揺れる屯所内の一室。部屋の主である土方は腕を組み、頭を悩ませていた。そして土方を悩ませる話を持ってきた永倉を見遣り、溜息を吐く。
「深山葵を師範にしたい、だ?」
「だからそう言ってんじゃないですか。深山のやつ、相当腕が立つ。さぞや名のある御仁の元で鍛えられたんだろう。自己流ならああも綺麗な太刀筋にはならない」
「だからって、――女だぞ?うるさい奴らが湧く」
「土方さんは良いんですか?」
「別に女だろーがなんだろうが、新撰組のためになるならなんだっていい。それに、お前が認めるなら相当だろう」
「俺、信頼されてんっすね。なんか照れんな」
「安心しろ、剣の腕だけだ」
鼻で笑う土方に、永倉は不満げな顔をする――が悪ふざけも終わりだ。
「じゃあ、深山を師範にしても?」
「…ああ、いいだろう。ただし、条件がある」
「条件?」
「深山葵の力量、――俺の目で確かめたい」
そして次の日、土方は葵の剣を見た。
美しい、と感じた。迷いのない、まっすぐな剣。けれど、どこか歪さを持っている。既視感を感じるその歪みは一体どこからくるのか。
それはすぐに分かった。
(…総司か)
何よりも剣に純粋で、素直で、負けず嫌いのあいつだ。あいつにそっくりだ。
総司の剣が歪んだのは、人を殺したときからだった。
葵は確か、兄を手にかけたと言っていた。
そのせいなのだろうか、彼女の剣が歪んでいるのは。
土方は腕を組み、木陰から四人を相手に立ち回る葵を見る。くるくると踊るように、風のように素早く。あながち、舞っているようだ、評した永倉は間違いではない。
しかし、それ以上に歪さが、目立つ。
その歪さは、誰にでも分かるものじゃない。
(同じ穴の貉ってことか?)
四人を地に伏せさせた葵の姿を認め、土方は自分の考えを笑い飛ばしながら、しかしそれも真理の一つかもしれない、と一度天を仰ぎ、立ち尽くす葵の元へ足を進めた。
