蛍火と白狐




「……どうしましょうか」



歩きながら、言葉はいきなり呟く。その顔は困ったように私を見ていた。



「どうしたの?」



「いえ、一度あちら側へ戻りたいのですが、その、いいですか?」



あぁ、成る程、懸念してたのはそんなことか。あちら側で苦い思い出のある私を気遣って、言葉は。



でもね、だから、私は、



「うん、大丈夫だよ」



そう頷くしかないんだよ。



「……ぁ」



何でもないという風に笑ってみせた私に、言葉は何故か傷付いたような顔をした。



「……ごめん、なさい」



唐突に謝る言葉に、私はただ戸惑った。言葉が謝る必要はどこにもないのに。



「大丈夫だよ、有り難う。言葉は本当に優しいね」



それが少し、羨ましい気がする。私は誰かに優しく出来ているだろうか?



「それは、君が……」



「?」



「何でもありません。行きましょうか」



言葉はいつものように笑うと、私の手をするりと掴まえて引き寄せる。



あぁ、そういえば、繋いでなかった。



繋がれた手の温かさに妙に安心しながら、人気の増してきた街道を歩いて行った、午前十一時ちょっと過ぎ。