蛍火と白狐




違う……。



違うよ。



あの時、私は、……。



「蛍?」



誰かの呼ぶ声が聞こえて、ハッと意識を現実世界に戻した。



目の前で、言葉が首を傾げながら私の顔を覗き込んでいた。



それはいい。



それはいいけど、顔の距離がおかしい!辞書くらいの隙間しかないよ?



「あの……言葉、近い」



「近くにいてはいけませんか?離れてた方が、君は嬉しいんですか?」



言葉はすごく哀しそうな顔をして、しょぼんと肩を落とした。



……罪悪感が生まれるのは何故?



「そ、そういうことじゃなくて、その、恥ずかしいというか……。

私、免疫がないから。言葉は多分慣れてるんだろうけど、その、あの、ね」



「慣れてるって……。何か嫌な響きですね。まるで僕が軽薄な奴みたいじゃないですか」



「そういう意味じゃなくて、あの、でも、だってほら、色々……」



「はいはい、わかってます。

さぁ、もうすぐ昼休みが終わってしまいます。二人はケンカしながら帰ってしまいましたよ。僕達も戻りましょう」



あぁ、静かだと思ったらもう戻ってたんだ。



「うん、そうだね」