蛍火と白狐




翌日、いつも通り登校して席に着くと、前に座っていた淵川くんが振り向いた。



「……昨日は悪かったな。霊獣にもそう伝えてくれ」



ぼそっとそんな言葉が聞こえ、私は思わず微笑む。



「な、何笑ってんだよっ」



「ううん、何でもないの。私や弥緒なら大丈夫。謝ってくれて有り難う」



「はあ?」



「昨日のことは忘れて、これから仲良くしよう?いいよね、言葉」



言葉はニコッと笑って「えぇ」と答えてくれた。良かった……。



「お前ら、馬鹿じゃねぇの?俺はお前らの敵なんだ、仲良くなんか出来るかよ」



「そうでしょうか?」



「……んだと?」



言葉は意味ありげに笑いながら、淵川くんをじっと見ている。



「どういう意味だよ」



「そのうちわかります。そのうち、ね」



「テメェは本当に気に入らねぇ奴だな」



「ま、まあまあ落ち着いて、淵川くん」



淵川くんはふん、と言葉から視線を逸らし、私を見た。



「……翠だ」



「え?」



「俺の名前は、淵川 翠だっ」



……知ってるけど……?



頭にはてなを浮かべて首を傾げる。隣では言葉が声を押し殺して笑っていた。



「だから、翠でいいって言ってんだ!鈍い奴だな、お前はっ」



あ、そういうことか。



「うん、よろしくね、翠くん」



「よろしくはしないっ」