「……は?」
瞠目していると、爆弾発言をかましたその主は視線に気付き、振り返ったかと思うとにっこりと笑った。
「そういうことなので、すみません」
そういうこととはどういうことだ。
すぐには理解出来なかった言葉がじわじわと脳に染み込むと同時に溢れ出たのは複雑な熱。
腹が立って、悔しくて、がっかりして、やる瀬ない。そしてその全てを引っくるめて愕然とした。
リゼはエナを切り捨てた。
人工龍石の特許権という大きすぎる利益を前に、リゼはあっさりと手の平を返したのだ。
突然のことすぎて、頭がうまく回らない。感情に身体がついてこない。
「ここに居る全員が証人です。ダルシェウルが保有する人工龍石の特許権を、我がハセイゼン家に譲る、ということで宜しいですね? まあ、この取引に反対の方も居るようなので、証人になるかどうかは甚だ疑問ですが」
「ああ、話の通じる人で助かった。末永い国交の証として譲渡すると誓いましょう」
狐と狸の化かし合いのような画ではあるが、とんとん拍子で契約は締結へと近付いていく。
『……前代未聞の取引が行われましたが、双方合意ということでよろしいですね?』
今まで沈黙を守っていた進行役が、話が纏まるのを待って確認を取る。
その声でゼルの固まっていた思考が溶けた。
是を唱える二者。
このままでは、いけない。
『それでは一千万ガルカで落札です!』
落札が宣言されたのとゼルが動いたのは、ほぼ同時だった。
【それ】を為すため、毒々しいまでの真っ赤な裏地を見せつけるように外套を翻す。
「……何の真似ですか。それを仕舞いなさい」
「いやマジで何の真似……なんだろォな」
リゼの肩にあてがった刃と自身のその行動にゼルは怒りを目に湛えながら失笑を零した。
怒気を孕みながら笑うなど、そんな器用な芸当がまさか自分に出来るとは。
「けど、オレは剣を抜いた。答えは一つだ」
何をしようというのか、自分でもわからない。
ただ見過ごすことはできなかった。エナの落札も、この怒りも。
たとえリゼを相手に戦うことになろうとも、だ。
確かな敵意を感じ取っているだろうに、リゼは慌てるでもなく驚くでもなく、ただ溜め息を吐くだけだ。
それが冷静を装っているのか、冷静を欠くに値しないからなのか――敵になった途端、それが読めなくなる。
瞠目していると、爆弾発言をかましたその主は視線に気付き、振り返ったかと思うとにっこりと笑った。
「そういうことなので、すみません」
そういうこととはどういうことだ。
すぐには理解出来なかった言葉がじわじわと脳に染み込むと同時に溢れ出たのは複雑な熱。
腹が立って、悔しくて、がっかりして、やる瀬ない。そしてその全てを引っくるめて愕然とした。
リゼはエナを切り捨てた。
人工龍石の特許権という大きすぎる利益を前に、リゼはあっさりと手の平を返したのだ。
突然のことすぎて、頭がうまく回らない。感情に身体がついてこない。
「ここに居る全員が証人です。ダルシェウルが保有する人工龍石の特許権を、我がハセイゼン家に譲る、ということで宜しいですね? まあ、この取引に反対の方も居るようなので、証人になるかどうかは甚だ疑問ですが」
「ああ、話の通じる人で助かった。末永い国交の証として譲渡すると誓いましょう」
狐と狸の化かし合いのような画ではあるが、とんとん拍子で契約は締結へと近付いていく。
『……前代未聞の取引が行われましたが、双方合意ということでよろしいですね?』
今まで沈黙を守っていた進行役が、話が纏まるのを待って確認を取る。
その声でゼルの固まっていた思考が溶けた。
是を唱える二者。
このままでは、いけない。
『それでは一千万ガルカで落札です!』
落札が宣言されたのとゼルが動いたのは、ほぼ同時だった。
【それ】を為すため、毒々しいまでの真っ赤な裏地を見せつけるように外套を翻す。
「……何の真似ですか。それを仕舞いなさい」
「いやマジで何の真似……なんだろォな」
リゼの肩にあてがった刃と自身のその行動にゼルは怒りを目に湛えながら失笑を零した。
怒気を孕みながら笑うなど、そんな器用な芸当がまさか自分に出来るとは。
「けど、オレは剣を抜いた。答えは一つだ」
何をしようというのか、自分でもわからない。
ただ見過ごすことはできなかった。エナの落札も、この怒りも。
たとえリゼを相手に戦うことになろうとも、だ。
確かな敵意を感じ取っているだろうに、リゼは慌てるでもなく驚くでもなく、ただ溜め息を吐くだけだ。
それが冷静を装っているのか、冷静を欠くに値しないからなのか――敵になった途端、それが読めなくなる。

