安いね、と男は嗤った。
 嗤って、誰も何もわかっちゃいない、と頭(カブリ)を振った。
 眼下で繰り広げられる光景。
 取り合っているのは決して美しいとは言えない非力な少女。
 四肢は細すぎて女性としての魅力もなく、労働にも向かない。
 奴隷市場なら二束三文で買い叩かれる。
 だが、そんな少女が映るモニター画面に男は蕩けるような笑みを向ける。
「まったく、価値がわからん奴らだ」
 誰にも請い願わず、何者にも支配を許さない。
 彼女はその心が望まぬことに、決して膝を折りはしない。
 だが彼女には顕示欲が無い。虚栄心が無い。優劣が無い。
 何にも屈しない彼女は、だからといって誰かを支配しようとするような、そんな矮小な存在ではないのだ。
 誰にも屈することがないばかりか、誰かが跪づくことも許さない。
 他者と自身を並べて考えないから比べることもない。
 対等であろうとするといえば聞こえはいいが、あれは違う。
 あれの本質に生易しさなどかけらもない。
 それはどちらかというと、他の人間とは生きる次元が違うのだと全身で叫んでいると言った方が近い。
 その傲慢さを根底に抱えながら、他者の傷を看過出来ずに拾い上げる性格が、彼女の特殊な資質をより見せつける結果になっていることを、彼女は知らない。
 恐らく未来永劫、知ることはないのだろう。
「俺なら……そうだな、国の一つや二つ、くれてやるかな」
 今まで見たどんな人間よりも高い矜持を、そうと自覚することもないままに持っている、無邪気にして気高いその魂に相応しいものなど世界中探してもそうそう無い。
「要らん、と……言うんだろうな」
 少し不機嫌な顔でそういう少女の姿が想像出来て、男は小さく笑った。
 あの資質に相応しいものほど彼女は欲しない。だから少女は、同時に無価値でもあるのだ。
「お前は、どうだ? その命は鉛玉一つより価値があるのか?」
 進行用のマイクを持ったまま震える初老の男の後頭部を銃で突(ツツ)く。
「まさか、此処でお前に会えるとは思わなかったよ」
 漏れる加虐的な笑いを隠そうともせず、男は言葉を徒に紡ぐ。
「なぁに、そう怖がるな。殺しやしないさ。……そういう約束だからな」
 ひっそりと囁いて男が笑うと、初老の男は益々肩を強張らせた。
「俺の邪魔をするなら、別だが」
 そこまで愚かでは無いだろう、と楽しそうに告げ、男は撃鐡を下げた。
「さて、進行の片手間で構わん。少し聞きたいことがあるんだが……」
 言葉を切って間を取る。
 それが初老の男の心に如何な恐怖を与えるかを、男は充分にわかっていた。
「まあ俺はどっちでもいいけどね」
 協力するもしないも――生きるも死ぬも勝手に選べ、と男は言う。
 初老の男に選択肢は無かった。