ただ目の前に求める未来へと続く道があったから選び取っただけだ。
がむしゃらに手を伸ばすだけじゃ駄目だということ、好機を掴む為にはどんな小さな可能性も大事にすること、それから仲間の絆は何物にもかえがたい宝物であるということ。
これが、ゼルがエナと居るなかで学び与えられたことだ。
「貴方自身に、何のメリットも無いじゃないですか」
この期に及んでまだ言い募るリゼは、おそらく知りたいのだ。ゼルがエナから得たものと同じようなものの存在を、リゼもまた気付き、知りたいと思っているのだ。だからこうも食い下がる。
だが、リゼの望む答えはゼルには与えてやれない。
ゼルの答えはゼルのものでしかないからだ。
答えはリゼ自身が感じ取るしかない。
「アイツが助かる。それがオレの――メリットだ」
リゼがそれを聞いて何を思ったのかはわからない。
だが彼はマイクの電源を入れた。
「二百万」
リゼの声が周囲に響いた。
一騎打ちだった競りに突如放り込まれた声に周囲の視線が一斉に集まったその一時、入札の声が止まった。
競りを指揮する進行役の声までもが止まり、如何なゼルでもそれが余程の珍事なのだということがわかった。
驚嘆と牽制するような視線の中、リゼは気にしたふうもなくマイクを切り、振り向いた。
あれほど、目に見える行動はするなとリゼ自身が言っていたのに、だ。
「……本当にいいんですね? この件が終われば、待っているのは彼女たちとの別離ですよ」
意地の悪い聞き方だ、とゼルは心中で苦笑する。
「……」
良くはない。だが、悪くもない。
半ば勢いとはいえ、己が選んだことだ。
「……ああ。未練がねェわけじゃねェけど、一緒に居るだけが仲間じゃねェし」
ゼルはエナの虚像に視線を投げた。
どれだけ離れても、彼女はきっと自身を仲間と呼び続けてくれる。そこにある絆は今後も変わらないだろう。
「二百十万」
「二百二十万」
ゼルはちらりとリゼに視線を落とし、思い出したように再開された競りの声の合間を縫って声をかけた。
「けどよ、出来ればこのいきさつ、あいつには黙っててくんねェかな。知れば、きっと気にする」
彼女はいつも何かを与えるばかりで、自分の為に誰かが何かを失うことを受け入れようとしない。
自身の自由の一部と引き換えにしたと知れば、エナはきっと自分を責める。
がむしゃらに手を伸ばすだけじゃ駄目だということ、好機を掴む為にはどんな小さな可能性も大事にすること、それから仲間の絆は何物にもかえがたい宝物であるということ。
これが、ゼルがエナと居るなかで学び与えられたことだ。
「貴方自身に、何のメリットも無いじゃないですか」
この期に及んでまだ言い募るリゼは、おそらく知りたいのだ。ゼルがエナから得たものと同じようなものの存在を、リゼもまた気付き、知りたいと思っているのだ。だからこうも食い下がる。
だが、リゼの望む答えはゼルには与えてやれない。
ゼルの答えはゼルのものでしかないからだ。
答えはリゼ自身が感じ取るしかない。
「アイツが助かる。それがオレの――メリットだ」
リゼがそれを聞いて何を思ったのかはわからない。
だが彼はマイクの電源を入れた。
「二百万」
リゼの声が周囲に響いた。
一騎打ちだった競りに突如放り込まれた声に周囲の視線が一斉に集まったその一時、入札の声が止まった。
競りを指揮する進行役の声までもが止まり、如何なゼルでもそれが余程の珍事なのだということがわかった。
驚嘆と牽制するような視線の中、リゼは気にしたふうもなくマイクを切り、振り向いた。
あれほど、目に見える行動はするなとリゼ自身が言っていたのに、だ。
「……本当にいいんですね? この件が終われば、待っているのは彼女たちとの別離ですよ」
意地の悪い聞き方だ、とゼルは心中で苦笑する。
「……」
良くはない。だが、悪くもない。
半ば勢いとはいえ、己が選んだことだ。
「……ああ。未練がねェわけじゃねェけど、一緒に居るだけが仲間じゃねェし」
ゼルはエナの虚像に視線を投げた。
どれだけ離れても、彼女はきっと自身を仲間と呼び続けてくれる。そこにある絆は今後も変わらないだろう。
「二百十万」
「二百二十万」
ゼルはちらりとリゼに視線を落とし、思い出したように再開された競りの声の合間を縫って声をかけた。
「けどよ、出来ればこのいきさつ、あいつには黙っててくんねェかな。知れば、きっと気にする」
彼女はいつも何かを与えるばかりで、自分の為に誰かが何かを失うことを受け入れようとしない。
自身の自由の一部と引き換えにしたと知れば、エナはきっと自分を責める。

